1993.7
★”納税”を考える
浪費も脱税も富の再配分、
裏街道にこそ花がある!?

 私の弟が屋根から落ちた! ・・・ハダシで屋根にのぼりペンキを塗っていたところ、うっかり塗り立ての塗料の上を歩いたものだからタマらない。そのままスキーヤーのように屋根の斜面を滑べり、ドサンと地面に落っこちたのである。ケガは、かかとの骨折。
 なんとも色気のない病名だが、屋根からの墜落事故にしては軽症だったので、兄としては安心した次第。ま、賢兄愚弟というが、私の弟(名前は二郎)は頭は悪くないが、少々オッチョコチョイなのである。
 屋根から落っこちた愚弟の二郎をオンブして病院に運んだのは賢兄の私であるが、その途中、奇妙な歌詞が私の脳裏に浮んだ。 その歌詞とは、
 「オラちの親父は、ハゲあたまぁ
   隣の親父もハゲ頭ぁ〜〜
  ハゲとハゲとが喧嘩してぇ
   どちらもケガねで よかったね〜〜」
というケッタイなものだ。
 読者の皆さん、この歌詞がどこからきて、どこで唄われていたものか? 私、歌詞は明瞭に覚えていているのだが、皆目検討がつかないのである。ご存じのかたがおられたら、教えていただきたいものである。
納税大好き!の奇特病院
 さて、屋根から落ちた二郎の勤務先は、私の町(栃木県真岡市)で一番大きな個人病院である。二郎は、その病院の経理課長なのである。
 個人病院というと、パチンコ店やソープランドと並んで“脱税ご三家”として有名だが二郎の病院は、まったく反対で、
 「納税が大好き!」
 という、今どき珍しい脱帽ものの病院だ。 なにしろ、町の最高納税者になるために、院長の命令で当然に経費にしてよい勘定を経費にせず、利益に繰り入れて申告したという経歴をもっている病院なのだ。
 「税金は絶対にゴマかしてはいけない!」
というのが二郎の口癖なのだから、私も堅い弟をもったものである。 (余談だが、二郎の病院の院長は、かの胃ガンの権威・中山恒明の直弟子で、メスさばき抜群の名医である。胃に不安のあるかた、訪ねてみる価値はありますぞ。)
 ここで、税金にかんして、二郎とは正反対の意見と思想をもつ御仁、私の親しい飲み友だちのKさんを紹介しよう。
日本の税金が高いワケ
 隣町に住むKさんは、当年とって55歳。
趣味は貯金だ。そして、“特技”は金勘定というくらいだから、札束の数え方は銀行員も顔負けだ。最後の一枚を数え終わるときの、 「キューッ、パチンッ!」という音を聞くと、 「あー、一万円札っていいなぁ」と、つくづく思ってしまう。
 このKさんの人生の楽しみは晩酌だ。酒に酔ったときのKさんは、まるで火事見舞に来た金太郎さんとマントヒヒの合の子だ。
 酒は人を多弁にするが、とくに酔うと顔が赤くなるタチの人は、概してよくシャべる。反対に、酒に強く顔色が変わらない体質の人は寡黙であるようだ。 酔ったときのKさんの“演説”は、芸術ではないが、それなりの芸にはなっている。
 Kさんの話芸を正確に伝えられないのは、まことに残念だが、Kさんの演説内容は次のようだ。
 「日本の国民は税金をゴマかす。そういう前提で日本の税法は成りたっている。だから日本の税金は高い! わかるかな? 諸君」
 わかるかな、と念を押して、「諸君!」と呼びかける手法と雰囲気は、往年の田中角栄を連想するといいかもしれない。
 「したがって、かくなる税法のもとで正直に申告し納税する人間は、バカがつく正直者であると言わねばならない! ・・・異論はないかね? 紳士諸君」
 タタミかけるような雰囲気の“講演”は、霊能俳優・丹波哲郎にも似ている。
 「いま小生は、金丸信のごとき脱税の守銭奴になれ、と言っているのではない。金丸は竹下をまもる哀れな犠牲の羊にすぎない!」
 こうした“庶民の反権力意識”をくすぐる話法に、 「なるほど!」とうなずく声がでるから、Kさんのエンジンはますます快調になる。
納税の義務なんてない?
 「金丸が貯め込んだ70億円などという金など、ほんのハシタ金だ。1週間程度の戦争遂行能力しかない、何の役にも立たない自衛隊に、日本の政府は百何十兆円も使ってきたんだぞ! 自衛隊が災害復興に役に立つというなら普賢岳はどうなってるの? もっと凄い無駄使いがあるぞ。諸君は“日本の万里の長城”といわれる五百兆円という膨大な無駄使いを知っておいでかな? 下水道事業じゃよ! 
 日本の下水道事業の欠点については、飯山一郎さんが5月号の『月刊・パソコン通信』誌に書いていたなぁ。」
 なるほど! 日本の政府は、大変な浪費ばかりしていたんだぁ。・・・おだてられて、いつしか私もKさんの論理にハマって納得してしまっている。
 「ようするにだ、日本の国家財政の歴史は気が遠くなるような浪費の歴史なのだ。こんな政府に税金を払う義務はない。金丸事件で有名になったワリシンやワリコーというのは、あれ、脱税を推奨するために開発されたようなものじゃないのかい? 金持ちには政府がチャーンと脱税をすすめてくれているんだ。 ま、政府の浪費も富の再配分だし、小生の脱税も、泥棒の仕事も富の再配分なんだ。」
 Kさんの“理論”は、まことにおそろしい論理に満ちているが、奇妙な説得力もある。
法律を守る義務もない?
 「さらにだ。日本の政府には、法律を守れ! と国民に言う権利が皆無であることだ。」
 ・・・どういうこと?
 「日本国憲法。この憲法は世界に誇るべき憲法だった。この憲法をキチンと遵守してきて、その上で、やはり日本国憲法は駄目でした、というなら話は分かる。しかし、日本の政府は、この40年間、憲法を無視し、ねじ曲げ、踏みにじってきたわけだ。国家の基本法典を遵守しない政府が、国民に遵法精神を説いても、これは駄目だわな。」
 このあたりのKさんの口調は、噛んで含めるような竹下節だ。まことに緩急自在、見事なスピーチである。その情報発信能力たるや、PC−VANやニフティの有能なネットワーカーもかなわない。
 「ひとつの証拠が消費税だ。客から預った消費税を納めないでネコババされている金の総額たるや、なんと何千億円という単位らしいな。小生の場合は売り上げがガラス張りだから、何ともゴマかしようがないが、裏金がうごく不動産業などは笑いが止まらなかったという話だ。」
 チキショー! 税金泥棒めッ!
 「なーに、心配することはない。バブルがはじけて、政府も悪質不動産業者も、歳入や収入がガタ減りで青意気・吐息だわい。」
 Kさんはどうなの?
 「わはははは、バブル知らずの小生にたいして、それは愚問だろうがぁ。」
 え?
 「株ですがな。株式。」
 そうだった! Kさんの裏の“商売”は、株屋だったのである。それも“売り屋”だったから、株の暴落過程での利潤は大変なものだったらしい。しかも株式売買の取引税は、たったの1%だ。(ため息)
 人の行く裏に道あり花の山(株屋の格言) ・・・徹底的に常識の逆をいけ! という生きかた、皆さんも少し試してみません?
 失敗したって、屋根から落ちたことを考えれば、たいしたことはないかもよ。
 ねぇ、二郎チャン。

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