NO.5

7.有益菌の培養
 汚水処理施設の維持管理費は, 電気料と汚泥ケーキ用凝集剤費用と汚泥処分費用であるといっても過言ではない。『グルンバ・エンジン』を中核とした“汚泥消散処理システム”の導入により, 凝集剤費用と汚泥処分費用はゼロになる。これは大きなマイナスがゼロになる大変なメリットであるが, “汚泥消散処理システム”の導入によって, さらに大きなプラスの価値が創造される。それは, 破砕汚泥細胞質を栄養源にした光合成菌の培養と緑農地への還元という方策である。

A.汚泥で光合成菌を培養
グルンバで汚泥細胞を微粒子化した際の溶液で光合成細菌を培養すると著しい増殖効果がある。これは, 汚泥細胞が蛋白質・脂質等の栄養分が豊富なためである。古谷乳業(株)の汚泥も栄養分が豊富で, グルンバ処理後の溶液を20%混合しただけの培養液で光合成菌が一夜で完熟したのである。
 筆者の実験室では、これまで光合成菌の拡大培養には, 栄養条件や温度条件を最適にしても最低でも4日を要していた。この場合の培地溶液は, 表7のような薬剤を調合した。
薬剤での光合成菌の拡大培養は費用が嵩む。したがって, 農緑地に散布するということは, コスト的に無理なことである。
 ところが, グルンバ処理後の汚泥細胞破壊溶液を利用すれば光合成菌液がコスト・ゼロで, しかも短時間で熟成するのである

B.光合成菌液の緑農地還元
 光合成菌は, 図11のように硫酸還元菌が発生させる硫化水素を栄養源として積極的に利用する。11)
 小林によれば、光合成細菌は硫化水素だけでなく有毒アミンであるプトレシンやカダベリン, また発ガン催奇性のあるジメチルニトロサミン(dimethylnitro-samine)をも好んで基質として利用し, 分解・除去する。12)
 さらに, 光合成菌は緑農地に還元すると, 作物の根が好まない有害物質を分解・除去し, 根の呼吸・栄養代謝系を守り, さらに窒素固定をも行なうので, 作物の大増収という結果をもたらす。
 光合成菌は, アミノ酸, ミネラル, ビタミン, 等々優良な栄養分に富んでいるため, 菌体は有機肥料として作物に対して好影響を与える。
(表7) 光合成菌拡大培養 培地溶液成分表
塩化アンモニウム (NH4CI) 1g
炭酸水素ナトリウム (NaHCO3) 1g
酢酸ナトリウム(無水) (CH3COONa・3H) 1g
塩化ナトリウム (NaCl) 1g
リン酸水素2カリウム (K2HPO4) 0.2g
硫酸マグネシウム(7水和物)(MgSO4・7H2O) 0.2g
プロピオン酸ナトリウム(C2H5COONa) 0.2g
DL-リンゴ酸(HOOC・CH2CH(OH)・COOH) 0.3g
ペプトン 0.2g
酵母エキス 0.1g
ビオチン 5mg
ナイアシン 50mg
微量元素溶液 1ml
蒸留水 1000ml

 さらに注目すべきことは, 光合成菌体には土壌中の放線菌が好んで基質として利用できる成分を含んでいるということである。光合成菌体を農緑地に土壌施用すれば, Fusarium oxysporum など植物病原性の強い糸状菌を食い殺す放線菌の増殖が促進し, 植物病原性糸状菌による連作障害は防除できるのである。13)
 …グルンバ処理汚泥水で光合成菌を培養し, 農緑地に還元し, 連作障害を防除し, 有機栽培作物を大増産させる機能が付加された悪臭ゼロの農村集落排水処理システム, これなら, 隣接農地所有農家も喜んで土地を提供してくれるであろう。 

硫化水素培地における光合成菌の生育と硫化水素の消長

8.おわりに
 連日, 全国各地の汚水処理施設で発生する膨大な量の汚泥(生汚泥, 余剰汚泥)は豊かな栄養分を含んではいるが, 現在, この栄養分はコンポスト化する以外に直接的な利用法はない。
 本論文では, 汚泥を超微粒子化→発酵→生物分解→消散という工程で消滅させるという画期的な技術と, 汚泥の栄養分を光合成菌液という有用な形態に変換する方策とその応用方法について述べてきた。これらの方策は, 日々深刻化する汚泥問題を解決する最も有効な方法になるものと考えられる。
 今後は, より大規模な汚泥消滅プラントを最小のエネルギーで稼働させる技術の確立に向けた努力が必要であろう。

【参考文献】
1)環境白書(平成5年版).1993.p167~171.環境庁編.
2)須藤隆一.1980.浄化に関与する微生物群,p20,活性汚泥法,思考社
3)C.R. Curds.1975.Protozoa In Ecological Aspects of Used-Water Treatmennt.edited by C.R.Curds and H.A.Hawkes,Academic Press.
4)小林達治.1993.光合成細菌で環境保全,p163.農文協.
5)森山 登.1995.分散・凝集の化学,p150.産業図書.
6)岡島秀夫.1989.土の構造と機能,p39.農文協.
7)服部 勉.1978.微生物生態入門,p47.東京大学出版会.
8)服部 勉.1978.細胞の表面特性と固体表面への付着,p54,微生物生態入門,東京大学出版会.
9)飯山一郎.1998.世界初の『超微粒化バイオとは』,pos-2,汚泥と光合成菌活用法を核とする新事業.Z-lantPress.
10)加藤良樹,林 昌宏,1994.微生物製剤による油の分解除去,p655,用水と廃水.
11)佐々木 健.1993.光合成細菌の生理と生態,p156,嫌気微生物学,上木勝司,永井史郎編著,養賢堂.
12)小林達治.1984.光合成細菌の自然界における役割と利用,p344,光合成細菌,北村博 森田茂廣 山下仁平編,学会出版センター.
13)小林達治.1984.光合成細菌の自然界における役割と利用,p349,光合成細菌,北村博 森田茂廣 山下仁平編,学会出版センター.

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