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暫定税率廃止、中期的に経済活性化も

(2008/03/28)

95年早大理工卒、第一生命保険入社。98年日本経済研究センター出向、00年第一生命経済研究所経済調査部副主任研究員を経て、2004年より現職。著書に「経済指標はこう読む」「アメリカ経済がわかる経済指標の読み方」など。景気循環学会幹事、一橋大学商学部非常勤講師。


◇永濱利廣(第一生命経済研究所主任エコノミスト)
 2007年度末に期限切れとなる道路特定財源の暫定税率を延長したい与党と、廃止を主張する野党との対立が続いている。しかし、暫定税率廃止による経済的影響といった実証的な政策議論は行われていない。

 暫定税率が廃止されれば、揮発油税と地方道路税の引き下げによって1リットル当たり25円ほどガソリン価格が下がる。これによって国の税収が年間で1兆3843億円、地方が461億円減少する。

 また軽油引取税の暫定税率廃止で、軽油が1リットル当たり17.1円値下がりし、地方税収が5281億円減る。自動車取得税も暫定税率廃止により1309億円の地方税収減につながる。さらに、厳密には道路特定財源ではない自動車重量税を通じても国で3325億円、地方で2013億円の減収となる。

■1世帯当たり年間3.2万円の負担減
 合計では家計が1兆5582億円、企業が1兆0650億円の減税となる。特に家計の1世帯当たりの負担額は全国平均で年間3.2万円減る。地域別で見ると、ガソリン支出の多寡を反映して、北陸、東海、四国の減税額が大きく、関東、近畿など大都市圏が小さくなっている。

 減税による所得の増加は個人消費を刺激し、企業の設備投資を上向かせる。ただ暫定税率の廃止によって税収は減少する。その分、道路関連の公共投資を減らすのか、当初の予算通り執行するのかによって経済成長や財政赤字への影響は変わる。

 仮に公共投資が予算通り行われれば、暫定税率廃止によって初年度の実質GDP(国内総生産)は9000億円増加し、財政赤字は2兆5000億円拡大する。2年目は実質GDPを2兆3000億円押し上げ、財政赤字は2兆2000億円増える。また3年目は実質GDPが3兆円増、財政赤字が2兆円増加となる。

■公共投資を削減すればGDPは初年度減
 しかし、公共事業が暫定税率の廃止に見合う分だけ削減されれば、2兆263億円分の公共投資が減少する。これによって初年度の実質GDPは1兆2000億円減少し、財政赤字は8000億円増える。2年目は実質GDPが5000億円増、財政赤字が6000億円増となる。3年目は実質GDP460億円増、財政赤字5000億円増となる。

 一方、地方道路財源を確保するなどして公共事業の削減が半分にとどまれば、初年度の実質GDPは1000億円減、財政赤字は1兆6000億円増。2年目は実質GDP9000億円増、財政赤字1兆4000億円増。3年目は実質GDP1兆5000億円増、財政赤字1兆1000億円増となる。

 このように、暫定税率の廃止は財政赤字の拡大要因となる一方で、公共事業の削減による悪影響をマクロ的には相殺できる可能性もある。つまり、中期的な経済活性化策として一定の評価ができる。ただ、我が国が深刻な財政赤字や環境問題にさらされていることを重視すれば、暫定税率を維持し道路特定財源の全額一般財源化は検討に値する。

■4月再可決は経済活動に悪影響
 現状の与野党対立を見ると、暫定税率に関する話し合いの進展が見られず、残りの租税特措法も期限切れとなる可能性が高まっている。さらに与党・政府が4月下旬に租税特措法を再可決し、暫定税率を元に戻せば、国民生活や企業活動への影響が懸念される。

 特に、安いガソリンや軽油を求める給油所や消費者から駆け込み需要が発生すれば、配送のボトルネックなどもあり、品切れで営業停止を余儀なくされる店舗も出てきそうだ。スタンドの行列により交通が混乱する恐れもあり、運送業などでも必要な軽油が確保できなければ物流に支障が出かねない。自動車取得税が上がる自動車業界でも駆け込み需要とその反動が予想されるなど、経済活動へは間違いなく悪影響だ。

 国民生活の安定が政治の責務とすれば、国民生活を巻き込む政争は許されない。いずれにせよ、以上のような実証分析を含めて日本経済に与える影響を客観的に吟味し、今回下される判断について国民に納得のできる説明をすることが政党や政治家としての責任だと考えられる。

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