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179.『三燕文物精粋』の驚愕 桃李  2002/07/01 (月) 12:56)
 
 同志社の発表を終えて筑波に戻ると、中国書籍専門店書虫から
『三燕文物精粋』(遼寧人民出版社2002)が届きました。
 収録資料は必ずしも網羅的ではありませんが、きわめて注目すべき
遺物が入っていました。
 (以下先日配布の資料と対比していただければ)
 なかでも遼寧省北票県の喇嘛洞ⅡM101号墓出土の龍文透彫鞍大阪府誉田丸山(応神陵陪塚)2号鞍と細部に至るまでほとんどまったく
同一で、丸山2号鞍は北燕の製品である可能性が高そうです。
 誉田丸山の古い方の轡も、朝鮮半島であまり見られず鮮卑領域に多い
縦長方形銜通孔を採用している点や方円結合形金具が存在する点から
も、まるごと鮮卑製の可能性が高そうです。(あるいは南朝が鮮卑と倭に
同時に同一の鞍を下賜した可能性も想定しておく必要があるかもしれま
せん)なお喇嘛洞ⅡM266号墓では丸山2号鞍のような丸っこい鞍で
鉄装のものも出土してます。

 更に喇嘛洞ⅡM202号墓では海金具を鉄装にした逆台形鞍が出土
しており、あるいは長野市飯綱社古墳の鞍も、あのおかしな鉄製輪鐙と
あわせ、鮮卑製の可能性も用心しておいたほうが良いように思えます。
    また喇嘛洞ⅡM217号墓で出土した四環鈴は金冠塚出土品の祖形
と目されます。
 喇嘛洞ⅡM196号墓の鉄製楕円形鏡板付轡は王子墳山腰M9001や
長野県鳥羽山洞穴のものとよく似ており、喇嘛洞ⅠM10号墓の鉄製
楕円形鏡板付轡はX字形銜留に短い毛抜形横棒引手を伴っています
が、これは百済の天安斗井洞Ⅰ -5号の楕円形鏡板轡・金属?
轡に対比されるもので、百済の初期馬具も鮮卑領域からの搬入品を
交えているようです。
 また帯金具類にも注目すべきものがあり、従来型式学的組列に不明
の点が多かった4世紀型から5世紀型への間を埋める資料が
喇嘛洞ⅡM196号墓で出土しています。
 すると奈良県新山古墳出土品→慶尚北道龍城出土品→
喇嘛洞ⅡM275号墓出土品→兵庫県加古川市行者塚出土品→
喇嘛洞ⅡM196号出土品→西溝村墓→王子墳山腰M9001→
兵庫県姫路市宮山古墳3号石室
という流れが描けそうです。
 なお喇嘛洞ⅡM196号墓出土の帯金具の垂飾は、心葉形の内部に
蕨手文を配しており、その意匠は百済の龍院里1号墳の扁円剣菱形杏葉
の祖形と目されるものです。
 
 以上、喇嘛洞の正式報告がなされたら古墳時代研究に大激震がくる
ことは間違いないでしょう。ぜひ現物を中国で見たいですね。
 それではまた。
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出典:http://homepage1.nifty.com/sawarabi/BBS/BBS101-200.htm
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